Artist / 平野 薫氏
  

第一回目は現代表現(旧空間造形)の一期生でギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE 」に所属するアーティスト平野薫さんへのインタビューです。平野さんは2003年に本学の博士課程を修了後、大量生産でつくられた衣服からほどいた糸で人の記憶や痕跡をテーマとしたインスタレーションを制作されています。そんな平野さんに作品制作の裏側や学生時代の思い出について語っていただきました。

 
 
 
 
インタビュワー(以下、Q) : 衣服の糸を解体し紡ぐ作品「untitled」シリーズに至るまでのきっかけについて教えてください。

平野さん(以下、H): 修士に在学していた時、広島の作家さんのスタジオで開催した個展で、現在の衣服のシリーズの根幹となる作品を発表しました。その当時は寝ている時の自分の存在の不確かさをテーマとして、白い布でパジャマを4着つくり、特殊な塗料を塗ったそのパジャマを一晩づつ着て就寝し、自身の痕跡が残ったそのパジャマの縫い糸を取って解体した布を平面的に構成するという作品を展示しました。制作中、このパジャマを解体する際に出てきた縫い糸であるミシン糸に惹かれていることに気づきました。
当時はなぜ惹かれたのかわかりませんでしたが、真新しい糸ではない、痕跡が残る糸の形状に惹かれたのでしょう。その経験から、衣服を糸へと解体してみようと思いました。5年ほど着ていたパジャマを糸まで解体し、その解体した糸をベッドと絨毯にマッピングした作品を修了制作で発表しました。衣服の糸を解き、並べ替える事によって存在の不確かさや痕跡を再構築しようとしたのが「untitled」シリーズのきっかけです。
 

“pajamas” 2000

Q  大学在学中はどのようなことを心がけて制作されていましたか?また、当時の研究室のエピソードを教えてください。

H  在学中、鰕澤教授に教えを受ける中で、作品のコンセプトの重要性を叩き込まれました。そのため、常に自問自答しながら制作していました。コンセプトを探す手がかりとして、研究室の画集や書物を見たり、展覧会を見に行くことによってアートに対する理解を深めていきました。当時は作品制作に没頭している学生が多く、誰かしら大学で制作していました。また、研究室のメンバーとは家族のように仲が良かったです。授業外でも遠方まで展覧会を見に行ったりしていました。

 

Q  卒業後、どのようなプロセスを経てアーティストになったかを教えてください。

H 卒業後は、神奈川に引越し、アルバイトをしながら銀座の貸画廊で展示したり、公募展に応募したりして作家活動をしていました。転機となったのは、2006年に開催した東京日仏学院ギャラリー(現アンスティチュ・フランセ東京 ギャラリー)での個展です。東京日仏学院は、フランスの文化を日本に伝えるための場所で、空間の雰囲気がとてもよく、ぜひ私の作品をここで展示したいと思い、直接交渉して展覧会をさせてもらいました。
その展覧会の際に応募した第12回資生堂ADSP(若いアーティストの展覧会カタログを支援する資生堂のメセナ活動)に選出された後、「shiseido art egg」(資生堂が主催する若手作家の登竜門的コンペティション)で、「第1回shiseido art egg賞」を受賞しました。SCAIとの関係が始まったのもこの頃だったと思います。
その後、2008年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の日米芸術交流プログラムでアメリカに滞在した後、平成21年度の文化庁新進芸術家海外研修制度、平成22年度のポーラ美術振興財団在外研修員の助成を受けてドイツ、ベルリンのUniversität der Künste Berlinに研究生として在籍していました。そこから2015年までの6年間ベルリンに滞在しながら活動、現在は広島を拠点として活動しています。

“untitled -jacket-” 2008

 

Q  現在(2017年6月)はどのような作品を制作されていますか?

H 2015年にベルリンから日本に戻ってきて、2016年5月に2週間だけ岩国の郊外に滞在していました。その時、すごく久しぶりに大きな鯉のぼりが空を泳いでいる風景を目にしました。鯉のぼりは衣服ではありませんが、家族や子供に対する思いがその中には残っていて、鯉のぼりを糸へと戻すことでその中に浸染された時や記憶を遡り、と同時に家族の歴史や時さえも形にすることができるの出来るではないか。と考えました。
今年4月から5月にかけて、安芸太田町の「mm project」というギャラリーで、「コイノボリ サカノボリ」という個展を開催しました。会場である安芸太田町の、とある蔵の中に50年ほど保管されていた約5mの黒い鯉のぼりを素材とした作品を展示しました。現在は、その黒い鯉のぼりのペアの赤い鯉のぼりを解いています。

 

 

“untitled -koinobori-” 2017

Q  今後アーティストを目指す学生にアドバイスをお願いします。

H  難しいですね。(笑)
まず、アーティストってどうなったらアーティストなのでしょうか。作品だけで、ご飯が食べれたらアーティストだとするのなら、私はまだアーティストではありません。
現在の私がアーティストであるとして話をすれば、アーティストはとにかくサバイブしなくてはいけません。それには、作品だけを作っていても、すごく強運の持ち主や実家がお金持ちでもないかぎり無理でしょう。それに、アーティストってフリーランスなので、いろいろなことを自分でやらなくてはいけません。確定申告やら、航空券の手配やら、請求書をつくったり。。。作品づくり以外のことも、身につけていかなくてはいけないんですね。
いつも何かと戦っていて、安定とは程遠い、そして孤独。まったく良いところがないようですが、それによって自由だけは獲得できている。自由な立場でこそ表現できることってあると思います。とにかく険しい道のりではありますが、自分を信じてやり続けるしかないですね。

 

 

 

今回インタビューに応じてくださった平野さんがドイツのKunstverein Gelsenkirchenにて9月3日から展示されます。
ドイツお住いの方々、要チェックです!


KUNSTstoff- TextilART
in der Reihe Raum + Objekt- Teil XIV
03.09.2017 – 05.11.2017

Daniela Bergschneider, Paderborn
Ulli Böhmelmann, Köln
Alexandra Deutsch, Wiesbaden
Reinhold Engberding, Quickborn-Heide
Kaoru Hirano, Nagasaki, Japan
Jens J. Meyer, Essen
Andrea Ostermeyer, Mannheim

Opening//
03.09.2017 11:30 am
Kunstmuseum Gelsenkirchen- Alte Villa
Horster Straße 5-7
45897 Gelsenkirchen
Germany

http://www.kunstverein-gelsenkirchen.de/pages/aktuell.htm